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横浜地方裁判所 昭和50年(ワ)509号 判決

原告

浅岡伸吉

被告

島田正男

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、各自、金一六二万〇七七七円及びこれに対する被告島田正男においては昭和五〇年四月二九日から、被告東都自動車株式会社においては同年同月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告らは、原告に対し、各自、金一八〇〇万円及びこれに対する被告島田正男(以下、被告島田という。)においては昭和五〇年四月二九日から、被告東都自動車株式会社(以下、被告会社という。)においては同年同月一八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  次のとおりの交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。

1 発生日時 昭和四九年四月九日午後一一時五五分ころ

2 発生場所 横浜市西区桜木町七丁目四一番地先路上

3 加害車 営業用普通乗用自動車(足立五五あ四四九九号)

運転者 被告 島田

4 被告車 営業用普通乗用自動車(横浜五五あ四七四七号)

運転者 原告

5 事故態様 被害車が、前記場所先を走る片側二車線の道路の中央寄り車線を、桜木町駅方面から岡野町方面に向かい進行中、対向して進行して来た加害車が、前記場所の岡野町方面側にある高島町交差点を通過した直後に右折を開始して原告の進行中の車線に進入して停車し、加害車の右側面前部と被害車の前部とが衝突した。

(二)1  被告島田は、加害車を自己のため運行の用に供していた。よつて、被告島田は、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条本文により、本件事故の傷害の結果原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告島田は、前記事故態様のとおり右折するに際し、対向して進行する車両の有無及び動静に注意し、その進行を妨害しない注意義務があるのに、これを怠り、慢然右折を開始して原告進行車線に加害車を進入させたため、本件事故を発生させた。よつて、被告島田は、民法七〇九条により、本件事故の結果原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

(三)1  被告会社は、加害車を所有してこれを自己のため運行の用に供していた。よつて、被告会社は、自賠法三条本文により、本件事故の傷害の結果原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  被告会社は、その営む一般乗用旅客自動車運送事業のため被告島田を使用し、本件事故は、被告島田が右事業のため業務に従事中に、かつ右(二)の2のとおり被告島田の過失により発生した。よつて、被告会社は、民法七一五条一項本文により、本件事故の結果原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

(四)1  原告は、本件事故の衝突の衝撃により、頭部外傷、頸椎、胸椎、腰椎捻坐の傷害を受けた。

2  原告は、右1の傷害のため、いずれも磯子中央病院において、昭和四九年四月九日から同年同月一四日まで通院治療を受け、同年同月一五日から同年五月二七日まで入院治療を受け、同年同月二八日から同年一一月一日まで通院治療を受け、同年同月二日から同年一二月二五日まで再度入院治療を受け、同年同月二六日から昭和五〇年一〇月七日まで通院治療を受けた。

3  原告の右1の傷害は、昭和五〇年一〇月二五日、治癒したが、原告には、前彎消失、第六、七椎間狭少、頸痛、肩痛、腰痛、右手痺れ等の頑固な神経症状が固定し、これは、自賠法施行令別表七級四号に該当し、少くとも同表九級一四号に該当する。

(五)  原告が本件事故の傷害の結果蒙つた損害は、次のとおりである。

1 入院雑費 金四万八五〇〇円

原告は、右(四)の2の入院中合計九七日間、一日当り金五〇〇円の雑費の支出を余儀なくされ、金四万八五〇〇円の損害を蒙つた。

2 入通院交通費 金五万九〇〇〇円

原告は、右(四)の2の入通院のため、昭和四九年四月一〇日から同年同月一四日までの通院のための自宅と病院との間のタクシー代として片道金八〇〇円の割合による合計金八〇〇〇円、同年同月一五日の入院、同年五月二七日の退院、同年一一月二日の再入院及び同年一二月二五日の再退院の際の自宅と病院との間のタクシー代として一回当り金一〇〇〇円の割合の合計金四〇〇〇円並びに、昭和五〇年一〇月七日までの二三五回の通院のための自宅と病院との間のバス及び電車代として片道金一〇〇円の割合による合計金四万七〇〇〇円の交通費の支出を余儀なくされ、総合計金五万九〇〇〇円の損害を蒙つた。

3 休業損害 金三二二万七九三九円

原告は、本件事故当時、三二歳一〇月であつたが、昭和四九年の労働省の賃金構造基本統計調査報告によれば、三二歳の男子の一か年の収入は金二一四万七〇〇〇円であり、原告は、本件事故の傷害のため、昭和四九年四月一〇日から昭和五〇年一〇月一〇日まで五四九日にわたり休業を余儀なくされたから、原告が右休業によつて蒙つた損害は、金三二二万七九三九円となる。

4 逸失利益 金九八五万〇四〇三円

原告は、右3で休業損害として主張した期間の経過した昭和五〇年一〇月一一日以後も稼働して収入を得ることができず、同年一二月から鮨職人としての修業を始めたが、自立するまで四年間は無給で修業を続けなければならず、さらに、その後も右(四)の3の後遺障害に照らせば、従前の労働能力を三五パーセント喪失した状態が三年間継続すると考えられるので、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して原告の失つた得べかりし利益を算出すると、別紙計算表(1)のとおり、金九八五万〇四〇三円となる。

5 慰藉料 金四八七万八〇〇〇円

原告が本件事故の結果蒙つた精神的苦痛を慰藉するには、右(四)の1、2の傷害につき金一五三万八〇〇〇円、同3の後遺障害につき金三三四万円の合計金四八七万八〇〇〇円が相当である。

6 弁護士費用 金八〇万円

被告らは、原告に対し、本件損害賠償債務を任意に履行しないため、原告は、弁護士である原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起追行を委任し、相当額の報酬を支払うことを余儀なくされたので、その内被告らに対し本件事故と相当因果関係がある損害として賠償を請求できる部分としては、金八〇万円が相当である。

7 損害の填補 金七一万〇六三三円

原告は、いずれも本件事故に基づく損害の賠償として、被告会社から金六二万二七三〇円及び自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険という。)から金八万七九〇三円をそれぞれ受領した。

よつて、原告は、被告らに対し、各自、本件交通事故の傷害に基づく損害賠償として、右(五)の1ないし5の合計金一八八六万三八四二円から同7の金七一万〇六三三円を差引いた金一八一五万三一〇九円につき、金一八〇〇万円及びこれに対する被告島田においては同被告に本件訴状副本が送達された翌日である昭和五〇年四月二九日から、被告会社においては同被告に右副本が送達された翌日である同年同月一八日から完済まで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  (一)の事実は認める。

(二)  (二)の1及び2の事実は否認する。

(三)  (三)の1の事実及び2の事実中被告島田の過失の点を除く部分は認め、被告島田の過失の点は否認する。

(四)  (四)の3の事実は否認し、1及び2の事実は知らない。原告の後遺障害は、自賠法施行令別表一四級九号に該当する。

(五)  (五)の3の事実中原告が本件事故の傷害のため原告主張の期間休業を余儀なくされたとの点並びに4及び5の各事実中原告にその主張の後遺障害が存したとの点は否認し、7の事実は認め、(五)のその余の事実は知らない。原告は、本件事故当時、訴外五光交通株式会社に運転手として勤務していたが、それ以前から転職が多く、昭和四九年一月、二月及び三月の給与はそれぞれ金二万〇五三一円、金八万三四三二円及び金八万二九五五円というものであつて、賞与の支給を受けたこともない。

三  抗弁

(一)  被告島田は、本件事故現場を右折する際、約四五メートル先に被害車を発見し、次に加害車を停車させた際には被害車は約二〇メートル先を走行中であつたから、原告は、約四五メートル先に進入してくる加害車を発見し、さらに約二〇メートル先に停車した加害車を発見しえたにもかかわらず、衝突を避けるため、制動して停車することも、歩道寄り車線に進路を変更することもしなかつたから、本件事故発生については原告にも過失がある。

(二)  原告は、自賠責保険から原告主張のほか金四二万九三五〇円、神奈川労働基準局から休業補償給付として金七八万六三一五円、療養補償給付として金六七万八〇四三円をそれぞれ受領した。

四  抗弁に対する認否

(一)  (一)の事実は否認する。原告進行道路は地下鉄工事のため中央寄り車線の右側に沿つて危険防止施設が設けられていて原告から対向車線の見通しはできず、さらに高島町交差点は右折禁止であつて被告島田の右折はこの禁止を潜脱しようとするものでありその上原告進行方向に設置された高島町交差点の信号機は青色を表示していたし、歩道寄り車線には他車が走行していたから、原告は、加害車の進入を予測することも衝突の結果を回避することもできなかつた。

(二)  (二)の事実は認める。

五  再抗弁

(一)  原告は、請求原因(四)の2の入通院により、磯子中央病院に対し、診療関係費として金一一〇万七三九三円の負担を余儀なくされ、同額の損害を蒙つた。

六  再抗弁に対する認否

認める。

第三証拠 〔略〕

理由

第一本件事故の発生について

請求原因(一)の事実については、当事者間に争いがない。

第二被告らの責任について

一  前記第一のとおり当事者間に争いのない本件事故の態様に照らせば、被告島田には、右折を開始して対向車線上に進入するに際し、対向して進行してくる車両の有無及び動静に注意し、その進行を妨害しない注意義務があるというべきである。ところが、いずれも成立の真正につき当事者間に争いのない乙第八号証の四、七及び八によれば、被告島田は、右折開始後対向車線の見通しが可能になつた地点で約四五メートル先に被害車を発見したが、停止してくれると考え右折進行を継続し、被害車がそのまま進行を継続するので危険を感じ、被害車が約二〇・五メートル先に接近したところで被害車進行車線上に加害車を停止させた事実を認めることができる。右認定に反する証拠はない。そうすると、右認定の被告島田の運転方法に照らせば、これが右に説示の注意義務に違反していること及び本件事故が被告島田の右過失によつて発生したことを肯認するほかない。従つて、被告島田は、民法七〇九条により、本件事故の結果原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

二  請求原因(三)の2の事実中被告島田の過失の点を除く部分については、当事者間に争いがない。又、本件事故が被告島田の過失によつて発生したというべきことは、右一に説示のとおりである。そうすると、被告会社は、民法七一五条一項本文により、本件事故の結果原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

三  なお、原告は、右一、二のほか、被告らにつき、いずれも自賠法三条本文による責任を主張する。そして、後記のとおり、原告の請求は一部棄却を免れないが、右棄却部分は、原告主張の損害が一部しか認定できないこと及び原告自身の不注意の結果過失相殺を免れえないことに由来するのであつて、これは自賠法三条本文の責任が認められた場合にも同様の結果となるのであるから、敢えて右自賠法三条本文の責任の有無を審究する必要はない。

第三過失相殺について

一  前記乙第八号証の四、七及び八、成立の真正につき当事者間に争いのない乙第八号証の五並びに原告本人の供述(後記採用しない部分を除く。)によれば、前記第二の一の事実のほか、地下鉄工事のため原告進行道路の中央寄り車線の右側に沿つて危険防止施設が設けられていて原告から対向車線の見通しはできず、さらに高島町交差点は右折禁止である事実及び原告が同交差点に原告進行方向に対面して設置された信号機の表示する信号が青色であることを確認して時速約五〇キロメートルで進行した事実を認めることができるが、そのほか、本件事故現場付近には照明装置が設置されて明かるい事実、被告が原告進行車線に進入したのは、右折というよりも転回のためであつて、その場所が転回禁止とはされていない事実、被告が右折の方向指示器を点滅の上右折を開始した事実及び原告は、加害車を発見後、停止してくれると考えてそのまま進行を継続した事実をも認めることができる。右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして、前記第二の一の事実と右認定の事実とに照らせば、原告が加害車を発見したのは約四〇メートル先、加害車が原告進行車線上に進入して停止したのを原告が認識したのは約二〇メートル先である事実をそれぞれ推認することができる。原告本人の供述中右推認に反する部分は原告本人の供述を除く前掲各証拠、殊に前記乙第八号証の五に照らし採用しない。他に右推認を覆えすに足りる証拠はない。そうすると、原告が、加害車を発見して直ちにこれを警戒する態勢をとり、加害車が原告進行車線上に進入して停止したのを認識して直ちに制動措置をとれば、本件事故は回避できたことになり、これらの措置をとらなかつた点において原告にも本件事故発生につき不注意があつたというほかない。そして、被告島田の右転回が実質的には高島町交差点における禁止された右折をしようとするものにほかならない点をも考慮して原告の不注意と被告島田の過失とを比較すると、前者を一とし後者を九とするのが相当である。従つて、原告が本件事故の結果蒙つた弁護士費用を除く全損害の一割は、原告がその不注意によつて発生したとして甘受すべきものであり、原告は弁護士費用を除く右全損害の九割及び右費用の填補を請求できるに過ぎないことになる。

第四原告の傷害及び後遺障害について

一  いずれも成立の真正につき当事者間に争いのない甲第三ないし第五号証及び乙第八号証の六、原本の存在及び成立の真正につき当事者間に争いのない乙第一〇号証の一ないし七〇並びに原告本人の供述(前記及び後記採用しない部分を除く。)によれば、原告が、本件事故の衝突の衝撃により、頭部外傷、頸椎、胸椎、腰椎捻挫の傷害を受け、そのため、いずれも磯子中央病院において、昭和四九年四月一一日から同年同月一四日まで通院治療を受け、同年同月一五日から同年五月二七日まで入院治療を受け、同年同月二八日から同年一一月一日まで通院治療を受け、同年同月二日から同年一二月二五日まで再入院治療を受け、同年同月二六日から昭和五〇年一〇月七日まで通院治療を受けた事実及び以上の通院の治療実日数が二四〇日である事実を認めることができる。成立の真正につき当事者間に争いのない甲第二号証には、初診が昭和四九年四月九日である旨の記載があるが、この部分は右甲第四、第五号証、乙第一〇号証の一、五及び原告本人の供述に照らし採用しない。

二  さらに、右甲第五号証及び原告本人の供述(前記及び後記採用しない部分を除く。)によれば、原告の右一の傷害が、昭和五〇年一〇月二五日、右磯子中央病院において、頸椎前彎消失、第六、七椎間狭少及び頸痛、肩痛、腰痛、右手痺れ等の頑固な神経症状が固定した状態で治癒したと診断された事実を認めることができる。

三  右一の診療及び右二の治癒と後遺障害の診断は、いずれも医師によるものであるから、特段の事情のない限り、右診療は本件事故の結果原告の受けた傷害のため必要であり、又、治癒及び後遺障害の診断は事実に即した妥当なものであると推認するほかない。本件においては、右乙第一〇号証の一ないし七〇によれば、昭和四九年五月二七日退院後に原告に施された治療は同一の薬剤の注射又は経口の投与が主体であり、経過観察を主目的として頻繁な通院がなされた節があることが窺われ、さらに昭和四九年一一月二日から同年一二月二五日までの再入院期間中原告がしばしば外出していることが認められるから右再入院は原告の日常生活の規制を主目的としている節が窺われるが、以上は未だ医師の指示及び診断に疑問を懐かせるべき右特段の事情には該当せず、他に右の事情を窺うべき証拠はない。従つて、以上の点は労働能力喪失の程度及び慰藉料の金額についての判断において考慮することとする。

四  右甲第二号証及び乙第一〇号証の四四によれば、原告が、昭和五〇年三月二九日、右磯子中央病院において、昭和五〇年四月一日から軽作業が可能であると診断された事実を認めることができる。そして、右乙第一〇号証の一ないし七〇によれば、昭和四九年一二月二六日退院当時の原告の症状が右診断の前後を通じ際立つた変化を示していない事実を認めることができる。従つて、右事実に照らせば、原告は、同年一二月二六日から右二に認定の治癒の日である昭和五〇年一〇月二五日までの期間を通じ従前の労働能力の三〇パーセントを喪失した程度で残る七〇パーセントの稼働は可能であつたと推認することができる。原告本人の供述によつても右推認を覆えすに足りない。他に右推認を覆えすに足りる証拠はない。

五  右二の後遺障害の程度については、これが自賠法施行令別表一四級九号に該当する限度では、当事者間に争いがない。原告は、これが同表七級四号か、少くとも九級一四号に該当すると主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。さらに、右二の磯子中央病院の診断についても、頸椎前彎消失と第六、七椎間狭少のいずれもその程度が明確でなく、他は自覚症状に依拠するものであつて、これだけでは同表一二級一二号に該当するかどうか判然としない。又、乙第一一号証の一ないし三には、右症状についての記載があるが、その成立の真正の認定の可否は別としても、これも右症状が同表一二級一二号に該当すると認定すべき的確な証拠とはなしえない。しかし、右一ないし四の事実に照らせば、原告が右二の後遺障害により従前の労働能力を一〇パーセント喪失し、その状態が右症状固定後二年間継続すると推認することができる。原告本人の供述によつても右推認を覆えすには足りない。他に右推認を覆えすに足りる証拠はない。

第五原告の損害について

一  そこで、原告が右第四の傷害及び後遺障害により蒙つた損害の金額につき判断する。

(1)  診療関係費 金一一〇万九三九三円

原告が前記第四の一の入通院により磯子中央病院に対し診療関係費として金一一〇万七三九三円の負担を余儀なくされ同額の損害を蒙つた事実については、当事者間に争いがない。もつとも、原告は、右入通院につき昭和四九年四月九日及び同年同月一〇日分を含め主張しているが、右両日の通院は前記第四の一に説示のとおりこれを認めることができない。しかし、通院していないのに診療関係費の負担が生ずることはないから、その金額は右のとおりに変りはない。

(2)  入院雑費 金四万八五〇〇円

昭和四九年当時、入院一日につき雑費として金五〇〇円の負担を余儀なくされた事実は公知であり、前記第四の一の原告の入院期間は通じて九七日であるから、原告は、右入院により、金四万八五〇〇円の雑費の負担を余儀なくされ同額の損害を蒙つたことになる。なお、昭和四九年一一月二日から同年一二月二五日までの入院は、前記第四の三に説示のとおり原告の日常生活の規制を主目的としている額が窺われるが、これによつても未だ右入院期間中の雑費の支出が本件事故と因果関係がないということはできない。

(3)  入通院交通費 金八万一二〇〇円

原告本人の供述(前記及び後記採用しない部分を除く。)及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一〇号証によれば、原告が、前記第四の一の入通院のため、昭和四九年四月一一日から同年同月一四日までの通院のための自宅と病院との間のタクシー代として片道金八〇〇円の割合による合計金六四〇〇円、同年同月一五日の入院、同年五月二七日の退院、同年一二月二日の再入院及び同年一二月二五日の再退院の際の自宅と病院との間のタクシー代として一回当り金一〇〇〇円の割合の合計金四〇〇〇円並びに右認定の当初の四日間を除く二三六日間の通院のための自宅と病院との間のバス及び電車代として片道金一五〇円の割合による合計金七万〇八〇〇円の総合計金八万一二〇〇円の交通費の負担を余儀なくされた事実を認めることができる。さらに、右認定の当初の四日間の通院及び各入退院については、前記第四の一の原告の症状及び公知である入退院の際の荷物等の運搬の必要に照らし、タクシーを利用する必要があつたと推認することができる。右認定及び推認を覆えすに足りる証拠はない。又、甲第一〇号証には、昭和四九年四月一〇日通院分の記載があるが、同日に通院の事実の認定できないことは前記第四の一に説示のとおりであるから、右記載により同日の通院交通費を認めることはできない。そうすると、原告は右入通院により金八万一二〇〇円の損害を蒙つたことになる。

(4)  休業損害 金九八万九七九七円

イ 原告は、休業損害の算定の根拠として、労働省の賃金構造基本統計調査報告による平均賃金を主張する。しかし、前記乙第八号証の五、いずれも成立の真正につき当事者間に争いのない乙第九号証の一ないし七、九ないし一一、第一二号証の二、三、原本の存在及び成立の真正につき当事者間に争いのない乙第九号証の八並びに原告本人の供述(前記及び後記採用しない部分を除く。)によれば、原告が、本件事故当時、訴外五光交通株式会社にタクシーの乗務員として勤務して収入を得ており、本件事故後神奈川労働基準局から一日当りの給与を金二八一八円三三銭として計算した休業補償給付の支給を受けた事実を認めることができ、さらに原告本人の供述によれば、原告が、本件事故当時三二歳の独身で、両親と同居して毎月金二万円程度の生活費を渡しているに過ぎないのに、金三〇ないし四〇万円の預金のほか格別資産も貯えていなかつた事実を認めることができる。以上の事実に照らせば、原告の本件事故当時の稼働による収入は、同年代の勤労者の平均的収入にまで達していなかつたと推認することができる。以上の認定及び推認を覆えすに足りる証拠はない。従つて、原告の休業損害の根拠として右調査報告を採用するのは相当でない。そして、右休業補償給付の支給金額に照らせば、原告の本件事故前三か月間の法定の計算方法による平均賃金は、一日当り金二八一八円三三銭であつたと推認することができる。原告本人の供述中には、タクシーの乗務員の収入としては正規のもののほかチツプが一か月当り約金五万円あつたとの部分があるが、右供述部分のみによりこれを認定することは困難であつて、右供述部分は採用しない。更に、原告本人の供述中には、原告が勤務の合間に関東企業こと訴外安宅武市方において工事金の集金、自動車の運転、右安宅の妻の身辺警護及び工事現場の監督をして、右安宅から一か月当り金七万円の支給を受けていたとの部分があり、甲第七号証の一ないし一二及び第八号証の一ないし三はこれに沿う如くであるが、右甲号各証はいずれも写しとして提出されたものであり、かつその提出の経緯及び体裁に照らし不自然さを免れず、右供述部分も不自然であつて、全て採用することができない。そうすると、休業損害の算定の根拠となる本件事故当時の原告の収入は、右認定の一日当り金二八一八円三三銭ということになる。

ロ 右イに認定の一日当り金二八一八円三三銭の収入を根拠として、前記第四の二に認定の原告の治癒に至るまでの期間中の休業損害を、同四に認定の労働能力喪失の程度に照らして算定すると、別紙計算表(2)のとおり金九八万九七九七円となり、原告は前記第四の一の傷害により同額の収入を得られず損害を蒙つたことになる。なお、原告本人の供述(前記採用しない部分を除く。)によれば、原告が、昭和五〇年一二月ころまで稼働しなかつた事実を認めることができるが、稼働しうるのにしなかつたことをもつて休業損害として加害者に賠償を請求することができないことはいうまでもない。

(5)  逸失利益 金四九万九〇一九円

右(4)のイに認定のとおり、原告の本件事故当時の収入は勤労者の平均賃金と比較すると極めて少額であつたといわざるをえないが、弁論の全趣旨によれば、これは主として原告の勤労意欲に由来し、一部には立証不可能の部分があることに由来するものであり、原告の労働能力には平均的勤労者から別段劣るところはなかつた事実を認めることができる。そして、右(4)のイに認定の原告の年齢に照らせば、原告が勤労意欲不充分のまま本件事故後も終始するであろうとは到底いえないのであるから、後遺障害の固定に伴なう逸失利益の算定に当つては、労働省の賃金構造基本統計調査報告によるのが相当である。昭和四九年の右調査報告によれば、企業規模計・学歴計の三〇歳ないし三四歳の男子労働者の平均賃金が、きまつて支給する現金給与額が一か月当り金一三万九八〇〇円、年間賞与その他特別給与額が一年当り金四六万九四〇〇であることが公知であり、その後勤労者の平均賃金が昭和五〇年及び昭和五一年に上昇していることも公知であるから、この上昇の割合を二五パーセントとし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、現在の水準により原告が前記第四の二の後遺障害の固定により失つた得べかりし利益を同五に認定の割合及び継続期間に基づき計算すると、別紙計算表(3)のとおり金四九万九〇一九円となり、原告は同額の損害を蒙つたことになる。

(6)  慰藉料 金一八〇万円

原告が本件事故の結果蒙つた精神的苦痛を現在慰藉するには、本件事故の態様、原告の傷害及び後遺障害の部位及び程度、前記第四の三に説示の事情並びに右(5)に説示のとおり休業損害の金額が低額であること等本件にあらわれた一切の事情を総合勘案し、金一八〇万円を相当とする。

(7)  弁護士費用 金一五万円

弁論の全趣旨によれば、被告らが原告に対し本件損害賠償債務を任意に履行しないため、原告が、弁護士である原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起追行を委任し、相当額の報酬を負担することを余儀なくされた事実を認めることができ、本件訴訟の経緯及び認容額に照らせば、本件事故と相当因果関係があり被告らに対し損害として賠償を請求できる部分としては、その内金一五万円が相当である。

三  以上のとおり、原告が蒙つた損害の金額は、右二の合計金四六七万七九〇九円となるが、前記第三のとおり、原告は自らの不注意により甘受しなければならない部分があり、原告が填補を請求できる金額は、右二の(1)ないし(6)の合計金四五二万七九〇九円の九割に当たる金四〇七万五一一八円と同(7)の金一五万円との総合計金四二二万五一一八円となる。

第六損害の填補及び認容額について

一  原告が、いずれも本件事故に基づく損害につき、被告会社から金六二万二七三〇円、自賠責保険から金八万七九〇三円及び金四二万九三五〇円並びに神奈川労働基準局から休業補償給付として金七八万六三一五円及び療養補償給付として金六七万八〇四三円をそれぞれ受領した事実については、いずれも当事者間に争いがない。

二  そうすると、原告は、被告らに対し、本件事故に基づく損害賠償として、前記第五の三の金四二二万五一一八円から右一の合計金二六〇万四三四一円を差引いた金一六二万〇七七七円及びこれに対するいずれも本件事故の後である被告島田においては同被告に本件訴状副本が送達された翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年四月二九日から、被告会社においては同被告に右副本が送達された翌日であることが記録上明らかな同年同月一八日から完済まで民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求することができることになる。

第七結論

よつて、原告の本訴各請求中前記第六の二のとおり正当な部分をいずれも認容し、その余はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 江田五月)

(別紙) 計算書

(1) 2147,000円(年収)×3.546(4年のホフマン係数)+2147,000円(年収)×0.35(労働能力喪失率)×231(5ないし7年目のホフマン係数の和)≒9,850,403円

(2) 2818.33円×(5日+43日+54日+158日)+2818.33円×304日×0.3≒989,797円

(3) (139,800円×12月+469,400円)×1.25×0.1×1.85941043≒499,019円

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